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【翻訳】キャノンデールGMジョナサン・ヴォーターズが語る、スポンサー撤退の崖っぷちから復活までの真相

 

今年のブエルタ・ア・エスパーニャ期間中のスポンサー撤退によるチーム解散騒動から奇跡の復活をとげたスリップストリーム・スポーツ(キャノンデール・ドラパック)。その顛末についてチームのGMであるジョナサン・ヴォーターズがインタビューで語っていたので、一部抜粋・再構成をして訳しました。 

 

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ーー 今日はキャノンデール・ドラパックGMのジョナサン・ヴォーターズが来てくれた。ようこそ。 

ジョナサン・ヴォーターズ(以下JV):

呼んでくれて、ありがとう。

 

ーー 8月1日に移籍市場が開いたわけだが、キミのチームは大きく変容を遂げた。まず来季はチーム名が新しく「EFエジュケーションファースト・ドラパック」になる。

JV:

ああ。

 

ーー ここ3、4ヶ月の動きについて聞きたいのだけど、激流に飲み込まれながらも最終的にはエキサイティング(良い結末)だった。そうだよね? 

JV:

ああ、想像以上に荒れ狂っていた。そして確かに”エキサイティング”だった。

あとチームの正式名称を言っておくと「EFエジュケーションファースト-ドラパック・パワードバイ・キャノンデール」だ。

 

ーー ごめんごめん。もし僕たちが「EFエジュケーション」って書いたら修正依頼のメールが送られてくる? 

JV:

それに関してはノーコメントだ。笑

メディアの話で言えば、今回の騒動に関する報道について、何度か本気で殺してやりたいと思った記者がいる。笑

自転車ロードレースに関する「移籍報道」は他のスポーツより影響が大きいんだ。なぜなら「このチームはあの選手を失ったから出資を降りよう。」「あのスポンサーはあの選手を支援しているから、我々はあの選手を狙おう」など、スポンサーやその候補の企業も移籍報道を参考に出資先を決めているんだ。

多くのスポーツにとって移籍はファンが喜ぶエンターテインメントだ。だから君たちメディアが面白おかしく物語を書く理由もわかる。その方が読まれるからね。でも自転車ロードレースに関して言えば、その一つの記事がチームを消滅させる可能性を持っているんだ。例えば、2009年にウィギンス加入の噂がたったとき、僕らのスポンサーはとても喜んだ。結局スカイに行ったのだけどね。

 

ーー その問題に関してはこちらがノーコメントさせてもらうよ。キミは新スポンサー撤退の話を聞いて、全選手にチームの現状と契約解除のメールを送ったらしいが、あの時チーム解散という現実はどこまで迫っていたんだい?

JV:

状況の好転があと3日、4日遅かったら「いままでサポートしてくれてありがとう。」というチーム解散のメールを関係者に送っていたと思う。

 

ーー ツールの時のインタビューで君たちは「オース(Oath)」と新たなスポンサー契約を結んだと発表していた。それにウランと契約延長して君たちは正しい道を歩んでいるように見えた。一体何が起こったんだ?

JV:

いわゆる瀬戸際外交ってやつだよ。僕たちは運営に十分な額のスポンサーシップを新たなスポンサーと現行スポンサーから得られるはずだった。そしてその後とても魅力的なスポンサーをしてくれる企業が見つかった。しかし現実は最後の部分を詰めきれなかった。あれは悪夢だったよ。 

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「チームが存続が困難である」と報告したのは、リゴ(ウラン)と三年契約を結んだ8、9日後だった。通達後にリゴの「チームに新規スポンサー獲得する二週間の猶予を与える」という宣言がチームを救ったんだ。彼がそれをした理由はわからない。あの行動に広報戦略の意図なんてなかっただろうし。彼自らで下した決断だと思う。とても寛容だよ、彼は。

 

ーー (同じような運営危機に立たされた)他のチームがしているように、所属選手にそのことを知らせず、秘密裏にスポンサーを探すことだってできただろう?

JV:

ああ。だがそれは事態を悪化させる可能性もあるギャンブルだったんだ。

リゴに連絡をすれば当然他のチームと接触するだろうし、ツール2位のエースがチームを離れる噂は、新規スポンサーを探す上で不利に働いただろう。リゴがチームを離れることはキャノンデール・ドラパックの死を意味するからね。

でも僕は彼に連絡したんだ。リゴのことが大好きだし、人として尊敬しているから。でも難しい決断だった。

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とにかく事実なのは、あの時リゴ(ウラン)を失っていたらチーム存続はなかったということだ。  

 

ーー 新しいスポンサーである「EFエジュケーション・ファースト」との契約はどういった経緯だったの?

JV:

最初の出会いはロンドンで開幕を迎えた2014年ツールだった。それ以来特に何もなかったんだが、今回の騒動を聞いたEFに務める自転車ロードレースファンが、LinkedIn(ビジネス特化型のSNS)を通してメッセージを送ってきたんだ。

「スポンサーの提案書を送ってくれないか?送ってくれれば弊社で議題に上げてみる」と。

僕は深く考えずに「もちろん。」と資料を送ったんだ。

 

ーー LinkedInに救われるなんで、初めての経験じゃないか?

JV:

もちろんだ。あの時、LinkedInTwitterなどあらゆるリアクションに対して応答したんだ。何が功を奏するかわからなかったからね。でも考えても見てよ、LinkedInのメッセージに返信することなんて人生で何回あると思う?笑

その翌日か翌々日だったかは覚えていないけど、ロンドンに住んでいるEFの社長フィリップ・ハルトから電話を貰ったんだ。もちろん知らない番号からの電話なんて普通は取らないけどね。本当に取ってよかったよ。笑

 

ーー 君がこのツイートをした時にはチーム存続の可能性はどれくらあったんだい?

「とても興味深いことが起こっている。注目していてくれ。僕たちは諦めない。」

JV:

まだ全然わからなかった。EFとの話し合いの後、現オーナーであるダグ・エリスとニューヨークで”あるチーム”と会っていたんだ。そこがワールド・ツアーライセンスや選手との契約、スタッフなど全てを含め買い取りたいとオファーしてきた。

ダグと僕は決断に迫られたんだ。

もしEFのスポンサーを受ければ来季の1年はチームを維持できるが、2018年にまた同じような状況に陥る可能性があった。それに存続の保証が1年しかないチームがウランと3年契約をするなんてことはやはりおかしいと思ったんだ。だからEFが1年しか保証してくれないようだったら、大人しくこのゲームから降りる(身売り)しかなかった。

 

ーー 同じことの繰り返しになるからね。

JV: 

そうなんだ。来年またクラウドファンディングするなんてことはしたくなかったし、2年連続はそれほどの効果もないだろうし何より汚いやり方だしね。

だからダグと僕はEFと再度交渉したんだ。「君たちと契約したいがもう少し経済的な、長期的な保証があるものでないと無理だ」と。

EFのスゴいところは保留にした交渉をもう一度行ってくれたことだ。普通なら良い顔をしないことなのに。

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EFはスリップストリームの財務書類を求め一通り確認した後、長期的なスポンサーをするならスリップストリームという会社自体を買い取りたいと言ってきたんだ。

だから…ここから違う段階の交渉が始まったんだ。

10年以上もオーナーでいてくれたダグにとって買収は主導権を奪われることだから決して気持ちのよいオファーではなかっただろうが彼もチームが安定した長期的な運営を望んているからね。

結論に達するまでに様々な感情や困難があったけど、結果的に3年間のスポンサードを保障してくれた。とても良い形に収まったと思う。

 

ーー 話は前後するけど、クラウドファンディングは財政面ではなくスポンサー獲得にどのような影響を及ぼした?

JV:

とてもよい影響だ。僕らはクラウドファンディングで不足分を賄うなんて無理だと思っていた。だが、僕たちのファンがいかにチームを愛し、協力し、実際に25$や50$といったお金を払うという行動(チームへのコミットメント)をアピールしたかったんだ。

今の時代「どれだけ人の注目を集められるか」ではなく、「どれだけ人が行動を起こしてくれるのか」が重要なんた。だから「お金を送る」以上のチームへの参加表明はないと思った。結果的にこれがEFに大きなインパクトを与えたのは事実だ。

 

ーー 君のチームが初めてツールに出場した2008年以降、チーム名が何度も変わっている。スポンサーが変わる中どうやってチームの一貫性を保つことができたんだい? 

 JV:

「チームのブランドをどう保つか」についてはたくさんの議論があった。スポンサーが変わり、それに伴ってチームの色が変わり、ユニホームのデザインが変わる。そんな中でどうすれば「あのチームは元々あのチームだった。」と伝えることができるのだろうか?

例えばスカイがチームスポンサーから撤退して、代わりにどこかの電気会社がスポンサーになったら ”チームスカイ" としてのアイデンティティは失われるだろうし、それが元々スカイだなんて誰も思わない。チームスカイに”スカイということ以外のブランド”なんて存在しないんだ。

そんな中で、ダグと僕が出した答えが「アーガイル(チェック柄)」だったんだ。

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この模様ならどんな色にも、どんなデザインにも合わせられる。この小さな模様だけが10年以上スリップストリームたらしめるものとして残ってきたんだ。このアーガイルがチームに独立した個性をもたらした。そんなチームいままでいなかっただろう。

これはチームにどんな「選手」や「スタッフ」がいるが関係ない独立した個性だ。これまでは僕自身が「スリップストリームの文化」を理解してもらう為に奔走しなければならなかった。しかし今では新しく入ってくる選手や監督、スタッフは、僕から独立したチーム独自の文化を理解して入ってきてくれるようになったんだ。

 

ーー 報道によると君のチームの予算はワールド・ツアーチームで下から2番目らしいね。それでどう戦っていくつもりだい? 

JV:

これはウチのチームだけではない問題だ。もしファンが自転車ロードレースに「公平でオープンかつ、予測ができない高いレベルの争い」を求めるのならば、全チームに予算の上限が必要だろう。よく報道されている選手の年俸を制限する「サラリーキャップ制度」の導入とは違い、必要なのは”運営予算”の上限であり、その用途(科学トレーニング・風洞実験・首脳陣の報酬・選手の報酬など)をチームの裁量で決められるようにすれば、本当の意味での公平な戦いができるはずだ。

チェスでは全てプレーヤーが1つのクイーン、1つのキング、2つのビショップと持ち駒は決まっている。しかし現状は、あるチームはクイーンを4つ持っているのに、あるチームはポーンばかりという不公平な戦いになっている

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ーー なるほど。じゃあ、その”不公平なチェス”をEFエジュケーションはどう戦うんだい?

JV: 

今シーズンは割と上手く戦っていただろう?

予算が潤沢なチームでは「Aが倒れたらBがそのポジションを担い、Bが倒れたらC…」と代替して戦うことができる。つまり予測ができない要因や運を排除してく戦い方だ。

しかし僕らのように予算が乏しいチームは、その未知の要因や運を逆に利用して勝負するんだ。もちろんその選手の出来不出来がチームの成績に直結してしまうが、僕らはできるだけそれを防ぎ、賢いスケジューリングなどによって回避を試みている。

これはとても難しいゲームなんだ。

そして僕がGMとして戦っているゲームと、スカイのブライルスフォードGMが戦っているゲームは全く違うものだ。同じチェスではない。

 

ーー バスなどの「設備の差」については以前のインタビューで聞いたが、選手についての違いについてはどうだい?欲しかったけど取れなかった選手とかいる? 

JV:

そんなことは日常茶飯事だよ。ウィギンスやフルームだってブライルスフォードが名前を知る前から僕は目を付けていたんだ。

例えば、ウランはここ2、3年誰の目にも主力として映っていなかったはずだ。僕は「いま注目されている選手」を見ていない。そんな選手取れないからね。だから市場で見過ごされている選手を狙うんだ。そういった選手たちでチームを作るんだ。

 

ーー 今回のロースターで注目している選手は誰だい?マッティ・ブレシェル(アスタナ)がチームに戻ってくるし、ミッチェル・ドッカー(オリカ)もだ。サッシャ・モドロ(UAE)や、色々問題もあったがツールでステージ勝利(2016年第3ステージ)をしているダン・マクレイ(フォルトゥネオ・オスカロ)なども入ってきた。

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今年のツアー・オブ・ターキーではディエゴ・ウリシ(UAE)、ジャスパー・ハンセン(アスタナ)に次ぐ3位に入った来季からチームに合流するダニエル・マルティネス。(だが翻訳時でもいまだ正式発表はされていない)

JV:

モドロやマクレイはグランツールで勝利できる選手だと思っている。それにブレシェルやドッカーもリードアウトを正確に行える選手だし、彼ら自身が大きなレースで勝つことも期待している。

クライマーだとダニエル・マルティネスに期待しているんだ。これ発表されてる?されてない?これヤバい?

21歳の非常に才能のあるコロンビア人選手だ。ミラノトリノ7位になった。誰も知らない逸材だ。彼の成長は早いだろう。楽しみだよ。

 

ーー 今日はありがとう。

 

JV:

ありがとう。いつでも呼んでよ。

 

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・参考にしたインタビュー音源