ノルウェーのベルゲンで行われたUCI世界選手権と同時期に UCI(国際自転車競技連盟)の会長選が行われ、ダヴィ・ラパルティアン(フランス)が現職のブライアン・クックソン(イギリス)を38票対7票の大差で下し、新会長に就任しました。
ラパルティアンはさっそく「プロコンやワールドチームに所属する選手の最低賃金の段階的な引き上げ」に着手するなど、自転車界の変革を進めようとしています。しかし、フランス人であるということ等から ASOとの接近や、政治力先行で不透明な運営力への疑問など、不安視する声も少なくありません。
ラパルティアン就任後のUCIの動きを予測する意味でも、彼が会長候補であった際に語っていた事柄が重要であると思い、オーストラリアの自転車ロードレースサイト『Cycling Tips』が行った就任"前"インタビューを一部抜粋して訳しました。
尚、省略は恣意的であり、知識が十分でないことからニュアンス等に誤りがあるかもしれません。気になる点などがあれば原文をお読み下さい。またご指摘がありましたら是非ともお知らせ下さい。
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ー ASOの距離が近いことからあなたのことを ”ASOの操り人形” だと比喩する人がいますが、実際の関係はいかがでしょうか?
ASOとの関係はとても良い。
また、ASOと良好な関係を持っているUCIの代表というのは好ましいことだと思っている。なぜなら我々UCIが何をしようが、ASOが(世界で一番)立場の強い主催者であることに変わりはないだろう?それにUCIがASOと争うメリットなど何もない。
しかし、だからと言って UCI が ASO の要望に答える理由はないし、そのような事は起こらない。
例えば、僕がフランス自転車競技連盟の会長だった時に「ツール・ド・フランスの保険金の不当な比率」に関してASOと議論になったんだ。結局折り合いが付かず、その事を記者会見の場で説明した。
その結果、我々は『パリ~ニース』と、ツール・ド・フランスの正式な主催者である「TDF Sport」というクラブとの提携を拒んだんだ。もちろん行政として「クラブとの提携と保険抜きの開催」は不可能だから、直前になって(クラブ側が*)懇願してきた。これはとても大きな議論になったんだ。
この一件により、フランス自転車競技連盟とASOは対等な立場になることができたんだ。なので、これ以後の彼らと関係はとても良好なんだよ。
この時に僕が連盟の側に立ったように、UCIでも同じようなスタンスを取るつもりだ。しかし ASOとは RCSスポート(ジロ・デ・イタリア、ミラノサンレモなどの主催者) と Flanders Classics(ツール・デ・フランドルなどの主催者)のように、一緒のアイディアを共有して(同じ方向を向いて)いきたいとも思っているんだ。
昨年は「ASOがワールドツアーを離れる」かもしれない危機的な状態になってしまった。これはつまり ASO が主催するレース(ツール、ブエルタ、パリ・ルーベ等)が全てワールドツアーとは異なるカテゴリになる可能性があったということだ。またワイルドカードの出場枠についても大変な議論が起こった。
確かに僕の考え方がASOとそれほど離れていないということは事実だ。しかしそれは僕個人の考え方でしかない。
もし明日状況が変わるようなことがあったとしても、僕は自転車競技が良くなるように働くだろう。それは疑いようのない事実だ。
繰り返し言っているように、僕はASOの兵隊ではない。
確かにASOはとても強い立場にいる。そして一団体(主催者)が強くなりすぎることが(ビジネスや他のスポーツにおいても)良くないということは明らかだ。それら(ASOが主催するレース)はUCIの元にあるべきだと考えている。
また僕は RCSスポートに新しい会長が就任したことをとても喜ばしく思っている。彼らがイタリア国内のレースや、ジロ・デ・イタリアを少しづつ ”近代化” させている。また同時に Flanders Classics が力を増している現状もある。複数の力のある主催者がそれぞれのレースを運営することは自転車競技としては良いことだと思っているんだ。また彼らがEUの独占を禁ずる特定の法律に気をつけて動いているという事実もあるからね。
ー 会長選に向けたマニフェストには「アンチ・ドーピング」についも書かれていました。手短に言うとこれはどういうことですか?
まずCADF(自転車競技アンチドーピング基金)はとても良い働きをしている。彼らが "独立した団体" だということには何の疑いようもない。しかし問題は陽性反応が出たケースの時だ。UCIとして、TUE(治療使用特例)についてもっとプロフェッショナルにならなければならないし、その為には専門医師がUCI内部にいなければならないと思っている。これがとても大事なことだ。
CADFのドーピング検査よって陽性反応が出た場合、その後の手順として「UCI内のアンチ・ドーピング部門」に廻される。これはつまり「ドーピングテストは独立した団体によって実施されるのにも関わらず、その後はUCI 内部に移管されてしまう」ということだ。これは四年前の ”ブライアン・プログラム” の時に批判された問題だ*。
UCIから独立した形でアンチ・ドーピングに関する部署を作らなければならない。そうしないとUCIによる干渉が入ってしまうかもしれないからね(いま現在干渉があるという意味ではない)。またドーピングに対する措置はUCIではなく、また検査機関であるCADFでもない"別の団体"によって行われるべき必要があるんだ。なのでその措置はCAS(スポーツ仲裁裁判所)に担ってもらいたいと思っている。
さらに言えば、CADFには将来 ADF(アンチ・ドーピング機構)のように、ゆくゆくは他のスポーツにも使用されるような機関になってもらいたい。
ー 生体パスポート*について、UCIとして今後変更する予定のことありますか?
我々には信頼できる生体パスポートによる検査があるし、これは良い方向に向かっていると思う。しかし、”生体パスポートによるドーピング検知があった際に直接それを制裁に繋げること” は難しいから、従来のドーピング検査を平行して行っていくのが効果的だと思っている。
また、ウィギンスの一件*のようなことを繰り返さないようにしなければならない。もちろん健康上の理由からTUE(治療使用特例)の範囲でコルチコイドを必要とする場合、それを拒むことがあってはならない。しかし「具合いが悪い・病気」のために服用するのであれば、自転車に乗ることを止めなければならない。なぜならコルチコイドの服用は自転車に乗るには危険なレベルまで ”コレステロール値を減少させる” からね。当然それが正常値になるまで待たなければならない。
フランス自転車協会には、チームから独立していて所属選手に対し出場停止処分を下すことができる医療調査機関が存在するんだ。だから、UCIにもそのような機関を導入するべきだと思っている。
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以上です。
今回のインタビューは、ラパルティアンが会長選前に強調していた「モータードーピング」や、「女子自転車競技」に対する見解では読み取ることができなかった「ASOとの関係」と、「アンチ・ドーピングに関する取り組み」という内容が中心のインタビューとなっています。それらに関するラパルティアンの見解は、以下の記事で読むことができます。
翻訳・参考にした記事
・CyclingTips(ラパルティアンのモータードーピングに関する見解記事)
・CyclingTips(女子レースに関する見解記事)
・CyclingTips (翻訳した記事)
・Cyclingnews.com (最低賃金引き上げについての記事)
・CYCLINGTIME.com(会長選についての日本語記事)
・cyclowired(辻啓さんによる会長選速報記事)
注釈 ー
*確信が持てなかったのですが主語を”クラブ側”としました。
*ブライアンプログラム:詳細がわかりませんでした。(もしわかる人がいれば教えてください!)
*生体パスポート:検査によって禁止薬物を検出されるか否かではなく、継続的な観察によって体調の変化からドーピングを検知する手法。
*ウィギンスの一件:TUEステロイド使用に関する記事(AFPBB News)
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